2015年度 日本比較政治学会(第18回大会)プログラム

2015年6月27-28日[於 上智大学 四谷キャンパス]

第1日 6月27日(土) 13:30~15:30

分科会A|「欧州懐疑主義の比較政治学」

2014年5月に行われた欧州議会選挙では、「欧州懐疑派」「反欧州政党」と呼ばれるグループが各国で台頭した。「ユーロ危機に対する批判」を背景として台頭したとも言われたが、その様相は各国多様である。そこで本企画では、主に各国の政治的、社会的状況を視野に入れた、比較政治学的な視点で欧州懐疑派の台頭要因を議論したい。そしてそれを通じて、「台頭」の評価自体を改めて考えてみたい。
事例としては欧州政治を考える際に無視できないイギリス、フランス、ドイツを扱いたい。歴史や思想、社会政策や対既成政党関係などそれぞれの事例に応じた視点での報告、コメンテーターとの質疑を通じて、欧州政治研究以外にも、ポピュリズム、政党システム、地域統合研究等を対象に問題提起を試み、出席者の研究の一助となることを目的とする。

[司 会]

松尾秀哉|北海学園大学

[報 告]

若松邦弘|東京外国語大学
「UKIP支持の変容―2014年イギリス地方議会選挙からの分析」

畑山敏夫|佐賀大学
「フランスの『主権主義』と欧州統合の行き詰まり」

近藤正基|神戸大学
「ドイツ政党制のなかの『ドイツのための選択肢』」

[討 論]

近藤康史|筑波大学

臼井陽一郎|新潟国際情報大学

分科会B|「比較政治学における質的研究のフロンティア」

近年の比較政治学においては、方法論的にも高度かつ精緻な研究が増え、「科学」としての水準は著しく向上してきた。特に、自然科学の手法に範をとった量的研究の増加は比較政治学の科学的洗練化に寄与している。その一方、事例研究法を中心的分析手法とする質的研究は「科学」としての曖昧さが指摘され、KKVの『社会科学のリサーチ・デザイン』は量的研究法を質的研究にも適用することで、後者の科学的確証性を高めようとした。
しかしながら、最近では、質的研究を量的手法に事実上回収するのではなく、質的研究に内在する固有の価値を重視する、独自の方法論や科学的基礎論も展開され、KKVとは異なる視点から質的研究の確証性を高める試みも広まりつつある。
本分科会では、近年の質的研究の新しい展開をフォローするとともに、さまざまな角度からそれらの検討を行う。質的研究の特徴を浮き彫りにして、その長所と短所を明らかにしつつ、質的研究が比較政治学に対していかなる貢献を成し得るのか、熟考する機会を提供したい。

[司 会]

西岡晋|金沢大学

[報 告]

今井真士|文教大学
「『アラブの春』の比較歴史分析の再検討」

佐々田博教|北海道大学
「歴史分析における因果推論:政治学と歴史学の接点」

前田健太郎|東京大学
「事例研究における根本的な原因の発見」

[討 論]

北山俊哉|関西学院大学

日野愛郎|早稲田大学

自由企画1|「サブナショナル権威主義の比較政治学」

ラテンアメリカ諸国を主要な対象として発展してきた従来のサブナショナル権威主義研究は、中央レベルの民主化が必ずしもサブナショナルレベルの民主化に繋がらない「民主化の中で取り残された地方」を主に論じてきた。しかし、地方の権威主義は、中央が民主主義である場合だけでなく、権威主義体制下においても問題となりうる。こうした問題意識から、本パネルでは中央レベルの政治体制が異なるメキシコ、マレーシア、ロシアを取り上げ、地方レベルにおける政権交代の要因とその意味を検討する。本パネルは、サブナショナル権威主義をより幅広い文脈から問い直すことにより、その理論化の問題点や、分析視角の適応性・有用性についての議論を深め、今後の研究を進めていくための第一歩を踏み出そうとするものである。

[司 会]

中田瑞穂|明治学院大学

[報 告]

馬場香織|アジア経済研究所
「メキシコにおけるサブナショナル権威主義の崩壊再考:ギブソンの民主化論の批判的検討を中心に」

鷲田任邦|早稲田大学
「権威主義的優位政党支配下のサブナショナルレベルの政権交代要因:マレーシアを事例に」

油本真理|日本学術振興会
「プーチン・メドヴェージェフ期ロシアにおける市長選挙と『政権交代』:選挙の公正性をめぐる政党間競争に注目して」

[討 論]

粕谷祐子|慶応義塾大学

菊池啓一|アジア経済研究所

自由論題1|「アメリカ政治の分析視角」

[司 会]

大矢根聡|同志社大学

[報 告]

梅川(石川)葉菜|日本学術振興会
「アメリカの連邦制と三権分立制の交錯点:医療保険政策における特区認可権の運用の発展」

松井孝太|東京大学大学院
「米国の政党間競争と公共部門労働者の組織化」

平松彩子|ジョンズホプキンス大学大学院
「米国深南部三州における民主体制の定着の比較考察:州民主党によるマクガヴァン・フレーザー委員会党改革指針の受容過程1968-72」

[討 論]

西川賢|津田塾大学

16:00~18:00

分科会C|「プライマリーの比較政治学」

代表制デモクラシーにおいて、政党組織の衰退や無党派層の増大などが要因となり、選挙を通じた政治エリートの選出が機能不全に陥っているとの指摘がなされている。このような批判に対して、近年、候補者を選定するためのプライマリー(予備選挙)を導入する事例が、先進国、途上国を問わずに増えている。なぜ各国でプライマリーの導入が進められているのだろうか。プライマリーの導入は、政党組織や政党と有権者の関係にどのような影響を与えるのだろうか。本分科会では、地域横断的な事例の比較を通じて、プライマリー導入の経緯やプライマリーの効果を論じ、プライマリー研究が比較政治学においてどのような理論的貢献をなしうるのかを考える端緒としたい。

[司 会]

川村晃一|アジア経済研究所

[報 告]

西川賢|津田塾大学
「アメリカにおけるイデオロギー的分極化と予備選挙制度」

浅羽祐樹|新潟県立大学
「韓国総選挙における1人2票制の導入と候補者選出方法の変化」

豊田紳|早稲田大学
「覇権政党の盛衰と各級候補者選出制度の変遷:メキシコ・制度的革命党を事例として」

[討 論]

伊藤武|専修大学

分科会D|「『民主化革命』後の比較政治」

近年の比較政治学では、権威主義体制が長期にわたり持続する要因を説明する研究が増加する一方で、「カラー革命」や「アラブの春」など市民による「革命」が体制を崩壊させる事例も相次ぐ中で、権威主義体制崩壊の要因を説明しようとする研究も盛んである。しかし、体制崩壊後の政治の展開に関して、特に、なぜ権威主義体制はしばしば別の権威主義体制にとって代わられるのか、そして、そのような体制転換はいかなる条件下で起こるのかという点については、研究の遅れが指摘されている。そこで本企画では、旧ソ連、東南アジア、中東という異なる地域を比較しながら、「民主化革命」後の政治秩序形成のあり方を検討する。新しく生まれた政治体制は、いかにして秩序の安定を図るのか。旧体制下の既得権益は、どの程度「民主化革命」後にも残存するのか。新たな権威主義体制の登場は、「民主化の後退」にすぎないのか、それとも体制転換の1つのパターンなのか。各地域に特殊な事情を考慮しながらも、地域横断的な議論を通じて理論化への糸口を探っていきたい。

[司 会]

溝口修平|東京大学

[報 告]

本名純|立命館大学
「インドネシアにおける民主化後の政治秩序:権力と利権の再編メカニズム」

立花優|北海道大学
「体制変動とエリートの連続性:バラ革命前後のグルジア」

鈴木恵美|早稲田大学
「ムバーラク政権崩壊後における政治秩序形成」

[討 論]

大串敦|慶應義塾大学

鈴木絢女|同志社大学

自由企画2|「政府・与党間事前協議制度の比較政治学」

政府与党間事前協議とは、政府が議会に提出する予定の政府案を与党側に提示し、協議を通じて党側の意向を反映させる政治を指す。この政治過程は、日本ではいわゆる「与党事前審査」と呼ばれ、1960年代以来、自民党単独政権および連立政権の下で、すべての政府案を対象に行われ、慣行として制度化された。
この政府与党間事前協議は、日本固有の制度ではない。政府がその政策を実行する際には、法案を議会で通過させる必要があり、多くの場合に与党であるところの議会多数派の合意を調達する必要があるという点において、代表制を採る諸国は──議院内閣制・大統領制を問わず──共通しているためである。しかしながら、既存研究において比較の試みが十分なされているとは言い難い。そこで、本企画ではこの政府与党間事前協議につき、制度論の観点から比較を可能にする枠組みを提示したい。

[司 会]

孫斉庸|立教大学

[報 告]

作内由子|獨協大学
「オランダにおける政府与党関係とその変化」

朴志善|東京大学大学院
「韓国の政府与党関係:政府与党事前協議制度の改革とその限界」

舛方周一郎|神田外語大学
「大統領制下ブラジルにおける政府与党関係の制度化:歴史的制度論による気候変動政策の政治過程分析」

[討 論]

空井護|北海道大学

廣井多恵子|テキサス大学エルパソ校

自由論題2|「紛争・内戦の比較研究」

[司 会]

遠藤貢|東京大学

[報 告]

松嵜英也|上智大学大学院
「国際社会の関与の制限下における反政府勢力の自治選択―モルドヴァの沿ドニエストルとウクライナのクリミアを事例に」

伊藤岳|東京大学大学院
「内戦における暴力拡散の論理」

田中(坂部)有佳子|早稲田大学
「紛争後社会における政治勢力の組織的転換―東ティモールの事例考察を中心に」

[討 論]

三竹直哉|駒澤大学

中井遼|立教大学

第2日 6月28日(日) 10:00~12:00

共通論題|「執政制度の比較政治学」

比較政治学において、執政制度の問題は、これまで多くの論者により、さまざまなかたちで、たえず取り扱われてきており、中心的な研究テーマの一つとして位置づけることができる。2015年度研究大会の共通論題では、「執政制度の比較政治学」というテーマをとり上げる。具体的には、議院内閣制、大統領制、半大統領制に関し、先進民主主義国と民主化後発国の事例に注目しながら、執政制度が抱えている現在の問題とは何か、執政制度が機能するには、どのような条件があるのか、また、機能不全に陥るのは、どのようなときであり、どのような原因が考えられるのか、機能不全を解決するための方策とは何かなどの論点について、多角的に比較検討を行うこととする。本セッションにおいて提起される論点は、特定の国や地域に限定的であるというよりも、多くの異なる国や地域における執政制度の問題を考える際にも有用な手掛かりを与えることになるであろう。

[司 会]

岩崎正洋|日本大学

[報 告]

高安健将|成蹊大学「責任政治の挑戦」

野中尚人|学習院大学「比較から見た日本の内閣政府」

岡部恭宜|東北大学「民主化、執政府の抑制、制度」

[討 論]

大西裕|神戸大学

待鳥聡史|京都大学

12:10~13:00

理事会

13:00~14:00

総会

14:00~16:00

分科会E|「社会運動の比較政治学」

社会運動は、現代の政治を大きく動かすアクターの1つである。近年では、2010年末からの「アラブの春」における民主化を希求する市民による抗議デモに大きな注目が集まったが、とりわけOECD諸国において、社会運動は各国の政治をかたちづくる不可分の存在となっている(と同時に、その限界性も露呈している)。
よく知られているように、社会運動の研究は社会学から始まった。そこでは、主に社会運動の発生、発展、衰退のメカニズムの解明が目指されてきた。そのため、社会運動が政治にどのような影響をもたらすのか、といった帰結に関する問いは、十分に議論されてこなかった。
これに対して、比較政治学は、現代政治のアクターの1つとしての社会運動を取りあげ、またそれが織りなすインフォーマルな政治が持つ重要性に注目してきた。だが、その理論的な発展はいまだ発展途上にある。大統領、議会、政党、軍といった従来からのアクターがかたちづくる「制度内」の「フォーマルな政治」という、古典的な比較政治学の2つの「伝統」に対して、「制度外」の「インフォーマルな政治」を担う社会運動に関する諸問題は様々な示唆を与えるものであろう。社会学の知見と比較政治学の理論の架橋、そして、比較政治学の諸分野(例えば、政治過程論、民主化研究、内戦研究、革命研究、メディア研究)の深化に貢献できるものと思われる。
以上の問題関心から、本分科会では、地域横断的に社会運動とその政治的な帰結を論じ、社会運動研究と比較政治学とのあいだの接点や新たな論点を浮き彫りにしたい。

[司 会]

末近浩太|立命館大学

[報 告]

宮地隆廣|東京外国語大学
「戦争・多民族性・社会運動:ラテンアメリカ諸国の国家建設に関する比較分析に向けて」

横田貴之|日本大学
「エジプトにおける「革命」と社会運動:制度外政治の「制度化」に関する一考察」

日下渉|名古屋大学
「社会運動と市民/非市民社会:フィリピンにおける都市貧困層の事例から」

[討 論]

重冨真一|明治学院大学

自由企画3|「君主制国家の正統性原理とその受容」

中東・北アフリカ地域における2011年の大変動(「アラブの春」)によって体制変動および紛争を経験したのは全て共和制国家であった。アラブの君主制8カ国は比較的早期に動揺を収束させている。本企画は、こうした君主制のもつ強固な安定性が何によって保たれているか、そのメカニズムを問うものである。
アラブ君主制国家の安定性を解明する上で、有力なアプローチとしては、レンティア国家論と、王朝君主制論が挙げられる。しかしながら、石油や天然ガスを産出せず、支配家系による権力独占が行なわれていないモロッコやヨルダンはこれらのアプローチでは十分説明できない。言い換えれば、モロッコ、クウェート、UAEを事例とした比較政治研究は、「アラブの春」後の現在、これらのアプローチがもつ有意性を問い直す試みともなる。君主制国家における統治の諸制度や国家‐社会関係をより広い視点から検討するため、討論では中東政治のコンテクストを離れ、タイ王制研究の知見を得て議論を行う。

[司 会]

錦田愛子|東京外国語大学

[報 告]

浜中新吾|山形大学・白谷望|上智大学大学院
「正統性をめぐるパズル:モロッコにおける君主制と議会政治」

石黒大岳|アジア経済研究所
「議会政治がもたらす正統性の不安定な平衡状態:クウェートにおける分配政治と皇太子承認をめぐる政治力学」

堀拔功二|日本エネルギー経済研究所
「レンティア国家における君主体制の正統性と忠誠の役割:UAEと「アラブの春」を事例に」

[討 論]

玉田芳史|京都大学

自由企画4|「ネット選挙が変える政治:日米韓台の国際比較」

2013年の公職選挙法改正でインターネットを利用した選挙活動が解禁され、日本の選挙運動が少しずつではあるが、変化しつつある。インターネットを使った選挙は新参候補、既存の政治勢力のいずれに追い風なのか、新しい情報技術の利用がどのように選挙戦略や動向に影響しているのかなど、分析対象は尽きない。本企画は、インターネットを使った選挙活動で先陣を切っているアメリカ、韓国、そして台湾の状況を検証し、日本との比較分析を行う。具体的には、清原聖子(明治大学)会員が「ソーシャルメディア時代のアメリカ選挙キャンペーンにおける政党の役割-2014年中間選挙を中心に」として、アメリカの動向をまず、分析する。これに続き、李洪千(東京都市大学)会員の「2014年韓国地方選挙におけるスマートフォンアプリケーションの利用と選挙の変化」、陳柏宇(台湾・中山大学)会員の「2014年台北市長選挙におけるオンライン選挙運動」という2つの報告でアジアの動向を検証する。討論では日本との比較にも重点を置く。

[司 会]

前嶋和弘|上智大学

[報 告]

清原聖子|明治大学
「ソーシャルメディア時代のアメリカ選挙キャンペーンにおける政党の役割-2014年中間選挙を中心に」

李洪千|東京都市大学
「2014年韓国地方選挙におけるスマートフォンアプリケーションの利用と選挙の変化」

陳柏宇|台湾・中山大学
「2014年台北市長選挙におけるオンライン選挙運動」

[討 論]

前嶋和弘|上智大学

自由論題3|「比較政治学の新地平」

[司 会]

渡辺博明|龍谷大学

[報 告]

岡本至|文京学院大学
「台湾・香港の立憲主義と中国による浸透」

渡辺容一郎|日本大学
「連立政権とイギリス保守党:自民党との連立は保守党をどう変えたのか」

[討 論]

小嶋華津子|慶應義塾大学

若松邦弘|東京外国語大学

自由論題4|「比較政治学における数理・計量分析」

[司 会]

島田幸典|京都大学

[報 告]

松本朋子|東京大学大学院
「民主化が貿易の開放政策に及ぼす長期的影響」

稲田奏|早稲田大学大学院
「タイ2006年クーデタと王室の介入に関する数理分析」

宮脇健|日本大学
「マスメディアの権力監視に関する比較研究―日本のジャーナリズム調査の計量分析」

[討 論]

飯田健|同志社大学