2012年度 日本比較政治学会(第15回大会)プログラム

2012年6月23-24日[於 日本大学法学部 三崎町キャンパス]

第1日 6月23日(土) 13:30~15:30

分科会A|「権威主義体制の持続と崩壊:政治学方法論と地域間の対話」

2011年のチュニジア、エジプト、リビアで生じた体制変動によって、中東はもはや「民主化理論の例外地帯」ではなくなった。政変に至らない中東の権威主義体制は反政権デモに直面し、力による弾圧と対話路線の剛柔両面で難局を乗り切ろうとしている。かような現実の動向は、既存のアプローチや分析の切り口を見直し、政治体制変動の知見を見直す絶好の機会といえる。本分科会では既に権威主義体制の崩壊を経験した旧共産圏と東南アジアの事例とともに新しい研究方法によって再検討し、中東地域の現状と相対させる。旧共産圏についてはソ連崩壊研究を中心に大量観察型パネルデータ計量分析によって、東南アジアについては移行国と非移行国を分かつ制度的・構造的条件を比較事例研究によって新たな知見を発掘する。中東についてはエジプトの事例に焦点を当てて人民議会選挙をめぐる政党の合従連衡を分析し、体制変動研究の中に位置づける。このように多様な方法による各地域内の多国間比較研究を行うことで、政治体制変動という論点を軸に方法論と地域間対話が可能となる。研究方法と対象地域をめぐる対話は比較政治学を豊穣化する営みとなるだろう。

[司 会]

浜中新吾|山形大学

[報 告]

五十嵐誠一|千葉大学
「東アジアにおける体制変動の比較考察」

今井真士|慶應義塾大学・院
「憲法起草と『移行』:ポスト・ムバーラク期のエジプトにおける政党間の合従連衡」

笹岡伸矢|広島修道大学
「体制変動研究における地域間比較の可能性:ソ連崩壊研究とラージN研究の経験から」

[討 論]

上谷直克|アジア経済研究所

自由企画1|「グローバル経済における東アジア諸国の課題:中所得国の罠、国内格差、福祉国家」

東アジア諸国は現在、従来の急速な成長に由来した経済社会問題、①技術革新や生産性に関する「中所得国の罠」、②国内格差の広がり、③少子高齢化による福祉問題を抱えており、それらは先進国であれ、中所得国であれ、ある程度共通している。しかし、三つの課題は相互に絡み合って、財政、賃金、投資の面でジレンマを構成しているため、解決は容易ではない。本企画の目的は、各国がこれらの課題をどのように認識し、対処してきたか、どのような政策や制度が有効なのか、それらを形成するための条件は何か、を探ることにある。研究の焦点は、国家の能力および国家・社会関係に当てられる。事例は日本、マレーシア、タイを取り上げるが、適宜、韓国との比較も行う。

[司 会]

岡部恭宜|JICA研究所

[報 告]

恒川惠市|政策研究大学院大学
「日本:長期的停滞の政治経済」

河野元子|政策研究大学院大学
「マレーシア:曲がり角にある多民族国家の政治経済システム」

岡部恭宜
「中所得国のジレンマ:タイの事例」

[討 論]

大西裕|神戸大学

松本充豊|天理大学

自由企画2|「ジェンダー・クォータの政治学:北欧、ラテンアメリカ、韓国の比較」

本パネルの目的は、議会における男女平等を志向する「ジェンダー・クォータ」を比較政治の観点から検討し、その意義を明らかにすることにある。クォータは、西欧の政治や経済の変動の中で生まれ、その政治文化とともに登場し、政党が自発的に行なう「政党型」と、主に非西欧諸国で民主化や政治の再生など国家建設の文脈の中で発展し、憲法や選挙関連法で定め、クォータの実施を全政党に義務付ける「法律型」とに分けることができる。パネルでは、このようなクォータの出自と性質とをめぐる2つの軸に注目して、北欧(主にスウェーデン)、ラテンアメリカ(主にアルゼンチン)、韓国の比較を試み、ジェンダー・クォータの登場をめぐる政治過程や政治的効果などを検討する。セッションを通して、クォータというジェンダー政策が国内外の政治環境や経済政策と密接にかかわりながら登場する過程を明らかにするとともに、日本におけるクォータの議論への含意を示す。

[司会・討論]

三浦まり|上智大学

[報 告]

衛藤幹子|法政大学
「クォータと女性運動:政治的男女平等をめぐる『スウェーデン・モデル』の検証」

菊池啓一|ピッツバーグ大学・院
「ジェンダー・クォータの立法過程への影響:アルゼンチンの事例を手がかりに」

申琪榮|お茶の水大学
「クォータは女性の政治参加を促したのか?:韓国の例から」

自由企画3|「英米における第三政党の現在」

英米の政党政治では、ここ数年、二大政党でない第三の政治グループの台頭が目覚ましい。イギリスでは2010年総選挙でハングパーラメント(どの政党も議席の単独過半数を獲得していない状態)となる中、保守党と自由民主党による戦後初の連立政権が発足し、第三政党である自由民主党が政権運営や保守党の政策アジェンダに大きく影響している。また、アメリカでは既存の政党ではない、「小さな政府」を求める草の根運動「ティーパーティ」が加速度的に大きくなり、2010年中間選挙では運動に賛同する多数の「ティーパーティ候補」が共和党予備選や本選挙で勝利した。選挙後の議会内では予算や財政問題の審議に大きな影響を与えている。本報告では伝統的な二大政党制として知られてきた両国の政党制の変容を、第三政党(少数政党)という視点から分析する。また、討論者も2人置く。そのうち1人はドイツ政治を専門としており、英米以外の専門家の視点も反映させる。

[司会・討論]

菅原和行|釧路公立大学

[報 告]

渡辺容一郎|日本大学
「自由民主党との連立とキャメロン保守党」

廣瀬淳子|国会図書館
「ティーパーティ議員連盟の政策影響力の分析」

前嶋和弘|文教大学
「アメリカにおける第三政党の発展と限界」

[討 論]

安井宏樹|神戸大学

自由論題1|「欧州における政党政治」

[司会・討論]

日野愛郎|早稲田大学

[報 告]

杉村豪一|神戸大学・院
「欧州諸国における政党政治の展開と現在」

二宮元|一橋大学
「イギリス福祉国家と寛容な社会」

新川匠郎|上智大学・院
「なぜ、大連立政権が生じるのか:リヒテンシュタインに見る小国的特徴から考える」

[討 論]

成廣孝|岡山大学

自由論題2|「福祉と労働をめぐる政治」

[司会・討論]

田中拓道|一橋大学

[報 告]

秋朝礼恵|高崎経済大学
「スウェーデンにおける保育サービスの財政構造:普遍主義型福祉社会の理念と費用分担の変遷」

安周永|京都大学
「日本と韓国における外国人労働者政策の分岐:労働組合と市民団体の取り組みと提携」

矢内勇生|早稲田大学
「経済格差の認識と再分配の支持」

[討 論]

磯崎典世|学習院大学

16:00~18:00

分科会B|「政治発展と非公式制度:前世紀転換期のヨーロッパとラテンアメリカ」

19世紀のヨーロッパ周辺部とラテンアメリカのいくつかの国では、二大政党の交代制または中道支配の形をとるオリガーキックな腐敗構造が成立・存続した。本分科会では、この共通経験を単に「民主化の挫折」前史と捉えるのではなく、各国の政治的ハードウェアと社会・経済の現実とを媒介する非公式のルールに規定されたシステムとして理解する。そのうえで、(1)なぜ19世紀末以降の特定の時期にそうしたシステムが枯渇し、同時多発的危機に立ち至ったのか、(2)なぜ後続の枠組みとして、旧議会政治の「再版」、軍の政治介入、都市/農村ポピュリズムのような民主化の軌道を外れる多様な帰結が生じたのか、に着目しながら比較考察を試みる。本分科会は、時間軸の中での同一性と差異性の統合を中核的問題意識としつつ、異なる学問的伝統を持つ各国研究・地域研究の間の共訳可能性を模索しようとするものである。

[司 会]

横田正顕|東北大学

[報 告]

岸川毅|上智大学
「19世紀ラテンアメリカの政治構造と非公式制度:メキシコの場合」

高橋利安|広島修道大学
「自由主義期イタリアの『トラスフォルミズモ』再考:pseudo-parliamentary system?」

藤嶋亮|神奈川大学
「南東欧諸国におけるポスト寡頭制への移行:ルーマニアを中心として」

[討 論]

出岡直也|慶應義塾大学

分科会C|「新自由主義は各国・地域の政治をどのように変えたのか」

D.ハーヴェイはその著書『新自由主義―その歴史的展開と現在』(2007年)の中で、新自由主義の世界的拡散を跡付けるムービングマップを作成するならば、それはつねに地理的不均等発展のめまぐるしい変化を示すだろうと論じた。実際、各国における「新自由主義」改革の背景や内容、導入手法やペースの違いは、例えば経済問題の克服や成長のスピード・持続性のみならず、周期的に世界を襲う経済危機に際するダメージの程度や回復の仕方をも規定している。一方で、新自由主義が「我々の思考様式に深く浸透して」おり、それが普遍的かつグローバルな圧力へと実態化し、国や地域ごとで程度の差こそあれ、そこでの政治の在り方や政府の役割、そして社会の編成のされ方に少なからぬインパクトを与えてきたのも事実であろう。そこで本分科会では「新自由主義は各国・各地域の政治をどのように変えたのか」という問いに基づき、各地域における「新自由主義」改革の実際やそれに伴う政治の在り方の変化の有無を検討し、地域によっては「ポスト新自由主義」と呼ばれる時代における政治のあり方をも展望する。

[司 会]

上谷直克|アジア経済研究所

[報 告]

大西裕|神戸大学
「韓国における市場志向的政党組織改革のゆくえ」

篠崎英樹|慶應義塾大学
「新自由主義的経済改革と政党政治の変遷:アルゼンチンを事例に」

平野克己|アジア経済研究所
「開発論の変遷:サブサハラ・アフリカと市場主義、そして新自由主義」

[討 論]

林忠行|京都女子大学

分科会D|「脱原発の比較政治」

2011年3月以来、原発と放射能は、日本のみならず世界中で人々の大きな関心事となっている。原発事故の影響は、国境や世代を越える。また福島の事故後、食い違う「専門家」たちの意見を通じて、我々は何が科学的に正しい知見なのかに確信がもてぬまま、決定をしてきた/しなければならないことを知るに至った。これらの点を考えると、原発をどうするかは、単なる政策選択という意味を越え、民主的な決定とは何かを問い直すものであり、その国のデモクラシーのあり方のよい指標ともいえる。また、脱原発の方向に向かうドイツ・イタリア、原発維持を貫くフランス、といった具合に対応がわかれており、比較政治学的にも興味深い対象といえる。ただ上記の点に鑑みるなら、原発への対応の相違は、少数の変数の違いというより、各国の政治社会のより広い文脈から考えるべき問題であると思われる。本分科会では、(脱)原発問題の専門家による日独比較に、イタリア・フランス政治の専門家の分析を加え、それぞれの国で(脱)原発がどのように論じられ、それがいかに政治的決定に結びついたかについて、「福島後」の文脈も踏まえ、比較していく。

[司 会]

堀江孝司|首都大学東京

[報 告]

高橋進|龍谷大学
「原発とイタリア・デモクラシー」

畑山敏夫|佐賀大学
「フランスにおける原発と政治」

本田宏|北海学園大学
「脱原子力の政治と労働組合:ドイツと日本の比較の観点から」

[討 論]

渡辺博明|大阪府立大学

尾内隆之|流通経済大学

自由企画4|「多民族国家と連邦制:模範的モデルか、それとも分裂に向かう一つの段階か」

多民族国家の統治形態としての連邦制度をどのように評価すべきか。連邦化によって民族対立が緩和されるとする多くの成果がある一方で、例えばキムリッカが連邦制導入によって分裂が促進される可能性を指摘するなど、個別の事例研究を含めれば逆の主張をする研究も数多い。実際に1980年以降、ヨーロッパの7つの連邦制国家のうち3つは消滅した。本セッションでは以下の3つの多民族連邦国家研究を通じて、また討論者との対話を通じて事例と理論の間の架橋を探り、多民族国家における連邦制の意義を考察する。

[司会・討論]

近藤康史|筑波大学

[報 告]

松尾秀哉|聖学院大学
「ベルギーの政治空白と連邦化」

柳原克行|大同大学
「マルチナショナリズムとカナダ連邦制」

馬場優|立命館大学
「ケルンテン州の民族問題とオーストリア連邦制」

[討 論]

臼井陽一郎|新潟国際情報大学

自由企画5|「非欧米諸国の統治システムにおける軍・治安機関の役割」

非欧米諸国において国軍は、国防のみならず、古くは反植民地運動、諸革命運動の過程で、クーデタ実行主体としてさまざまな政治的役割を担ってきた。しかし、民政移管後も軍が政治的支配エリート層として統治機構の一部分を担うことが多い。2011年2月のエジプト・ムバーラク政権の転覆は、体制内支配エリートとしての軍の決断が、決定的な引き金となった。また、諸政党や財界が軍との関係を利用して政治的経済的影響力の拡大を図る、あるいは軍が政治的影響力を維持するために治安状況を操作するなどといった現象は、特に紛争経験国でしばしば見られる傾向である。本企画では、軍が何を資源として権力維持を図っているか、政権中枢との関係、支配エリート層への公的、非公的な参入ルートに注目し、中東、東南アジア、南東欧諸国の事例を比較する。

[司会・討論]

酒井啓子|東京外国語大学

[報 告]

松永泰行|東京外国語大学
「イランとエジプトにおける軍事体制:役割の多角化過程の比較考察」

本名純|立命館大学
「民主主義体制下のインドネシアにみる国軍改革と治安の関係:分離主義、テロリズム、地域紛争のインパクト」

久保慶一|早稲田大学
「体制転換期における軍と治安機関の役割:ユーゴスラビアの事例を中心に」

[討 論]

大串和雄|東京大学

池内恵|東京大学

18:30~20:30

懇親会

第2日 6月24日(日) 10:00~12:00

共通論題|「事例比較からみる福祉政治」

これまで政治系の学会において福祉や社会保障をめぐる「政治比較」の部会が設定される際には、単一の事例報告を並べることで比較とみなした議論が行われるか、そうでなければ「福祉レジーム論の適用可能性」や「福祉国家分析の方法論」のような形で、比較のための理論や分析方法に関する議論が行われるのが一般的で、複数の実例を具体的に比較した上での議論が行われることはまれであった。これに対して本企画は「比較政治学会」の共通論題として、一定の軸を基準として福祉政治に関わる「複数事例の比較」を行った研究報告をそろえることで、現在の福祉政治において地域を越えてみられる共通性や一般的な潮流と、それぞれの地域、あるいは領域における特質や固有の問題とを明確に区別していくこと、およびそのような比較分析の作業を通して従来の(比較)福祉政治に関する議論や方法論の問題点を検討し、その新たな発展の方向性についても検討していくことを試みるものである。

[司 会]

仙石学|西南学院大学

[報 告]

伊藤武|専修大学
「福祉政治と福祉改革の間」

宇佐見耕一|アジア経済研究所・牧野久美子|アジア経済研究所
「新興国における比較年金言説分析:南アフリカとアルゼンチンの事例」

西岡晋|金沢大学
「中央地方関係と福祉国家」

[討 論]

宮本太郎|北海道大学

小川有美|立教大学

12:10~13:00

理事会

13:00~14:00

総会

14:00~16:00

分科会E|「非民主主義国における議会の機能」

民主化の第三の波以降の比較政治学では、民主化しない体制はいわばアブノーマルな体制と見なされ、体制を維持するテクニックとしての選挙の不正、暴力の使用や、どのような条件が揃えば体制が崩壊するのか/しないのかが注目されてきた。しかし「アラブの春」を経た今も、中国、ロシアなど有力国を含む多数の国で権威主義体制がそれなりに安定的に存続している。本分科会では、権威主義体制の異常性や崩壊局面からひとまず焦点を外し、「現存する権威主義」を客観的に分析すること、また民主主義体制とある程度共通の切り口から分析することを趣旨とする。その際に注目するのは議会である。非民主主義国といえども多くの国に議会が存在し、体制の正統性を担保している。また、独裁的な政党や君主、大統領との相互作用や、地域的・コーポラティズム的な利益の代表による限定的な多元性の表出、独特の議会運営や人脈形成といった側面から、逆に権威主義体制としての特徴が浮かび上がってくると考えられる。本分科会ではそのような視点から、中国、中東、旧ソ連諸国を比較する。

[司 会]

宇山智彦|北海道大学

[報 告]

石黒大岳|神戸大学
「中東湾岸君主国における議会の役割」

加茂具樹|慶應義塾大学
「中国共産党の議会:政府の代理者と選挙区の代表者」

立花優|北海道大学・院
「旧ソ連諸国における支配政党を通じた議会統制」

[討 論]

村上勇介|京都大学

自由企画6|「安全確保の政治学」

現代国家における安全保障は、国防にはじまって、地震・津波、大規模テロ、感染症の爆発流行、金融市場のクラッシュなど、数多くの領域に広がっている。産業の高度化やグローバル化によって脅威の規模が拡大するなか、複数の危険と脅威に対してどう対応すべきか。本企画では、分野を横断した危機認識と、リスク管理が抱える課題を明らかにすることを試みたい。なお、これは日本学術会議政治学委員会比較政治部会の要請に応えて準備し、自由企画として承認されたものである。

[司 会]

新川敏光|京都大学

[報 告]

藤原帰一|東京大学
「セキュリティの政治 脅威概念の変化をどう実証するか」

城山英明|東京大学
「複合リスクマネジメントの体制とその政策過程」

平野聡|東京大学
「東アジアにおける安全観念の展開と国家体制」

[討 論]

木村幹|神戸大学

渡邊啓貴|東京外国語大学

自由企画7|「先進諸国における選挙と『投票率』をめぐる課題」

本企画は、日本を筆頭にしつつ先進諸国に共通してみられる「(若年層を中心とした)各種選挙における投票率の低下」という現象への対応策を探るため、比較政治学の視点から、この現象の背景とそこに潜む問題点とに対して学術的な検討を行おうというものである。比較政治学会では、すでに2009年度研究大会(於京都大学)において「若年層の政治参加の拡大」をテーマに掲げたセッションが設置され、この問題に関する議論が開始された。本企画ではこの成果を引き継ぎつつ、小野が「政治的信頼」と投票における「政治的有効性感覚」とに関して理論的視角からの問題提起と若干の比較政治学的検討を行い、続く神江が「政治参加」へ向けたデータベース構築における日米比較を試みる。そして中井が、かつての国民的な政治参加から今や低投票率国へと変化した中東欧諸国の現状を検討する。討論者として、河田は、ソーシャルキャピタルの視点からの現代政治研究を進めているところから、理論的課題に関して政治文化論の観点からコメントし、選挙研究を行っている森の経験的分析からのコメントと併せて、多面的な討論が可能になると期待される。

[司 会]

小林良彰|慶應義塾大学

[報 告]

小野耕二|名古屋大学
「『投票率』をめぐる問題状況と対応策への政治学的視角」

神江伸介|香川大学
「21世紀政治参加における日本とアメリカの課題:明推協とANESから」

中井遼|早稲田大学
「民主化運動から低投票率へ:中東欧の世論調査分析」

[討 論]

河田潤一|大阪大学

森正|愛知学院大学

自由企画8|「『保守』のヨーロッパ:保守主義vs.キリスト教民主主義」

英独仏をはじめ、現在、ヨーロッパの大半の国は保守系の政権に移行し、欧州政治は「保守」に染まりつつある。しかし日本の比較政治学では、この現下の「保守のヨーロッパ」に対する比較検討はほとんど存在せず、それ自体が学問上の重要な欠落であるといえる。他方、「保守」の実態をみれば、ヨーロッパには保守主義とキリスト教民主主義という二つの政治潮流が存在する。そこで本セッションでは、「保守のヨーロッパ」を見る視角として「保守主義vs.キリスト教民主主義」というテーマを立て、両者の歴史的展開やイデオロギー的特徴、国際的ネットワークなどに注目しつつ、その共通点と相違点を明らかにする。ときに協調し、ときに反発しあう両者の関係は、単なる各国内部の対抗軸にとどまらず、欧州統合をめぐっては、英国保守党政権と、キリスト教民主主義が伝統的に強い大陸諸国との対抗関係にも影を落としてきた。この保守的二大政治潮流の関係を解明することで、現代ヨーロッパ政治における隠れた補助線を明らかにしたい。

[司会・討論]

水島治郎|千葉大学

[報 告]

今井貴子|成蹊大学
「イギリスにおける保守主義の現在」

作内由子|東京大学・院
「オランダにおける宗派諸政党と保守勢力との関係:1930年代を中心に」

板橋拓己|成蹊大学
「『西洋の救済』:ヨーロッパ統合史のなかの『保守主義vs.キリスト教民主主義』1925-1965年」

[討 論]

田口晃|北海学園大学

自由企画9|「東南アジアにおける法の支配と民主主義」

政治の民主化につれて司法の重視が要請されるようになる場合が少なくない。本企画では、東南アジアにおける民主主義と司法の関係について3カ国の事例に基づいて考える。タイでは、1990年代に政治汚職への批判が強まり、新憲法の起草によって司法の役割が強化された。しかし、行き過ぎた「法の支配」が政治を混乱させていることを明らかにする。インドネシアでは、2003年に設置された憲法裁判所が人権保護や選挙の正統性確保に重要な役割を果たしており、この成功がきわめて競争的な政治権力構造が由来することを明らかにする。マレーシアでは、競争的権威主義体制のもとにおいて、司法に対する行政と立法の優位が確立されていった過程を、行政行為および立法行為に対する司法審査に焦点をあてて明らかにする。インド政治研究者を討論者に、フィリピン政治研究者を司会者に迎えて、各国の異同の比較検討を行いたい。

[司 会]

日下渉|京都大学

[報 告]

川村晃一|アジア経済研究所
「インドネシアにおける民主主義の安定と憲法裁判所」

外山文子|京都大学・院
「タイ:『法の支配』という大義名分による民主主義の破壊」

鈴木絢女|福岡女子大学
「競争的権威主義体制における裁判所:マレーシアにおける司法審査の研究」

[討 論]

上田知亮|龍谷大学

自由論題3|「非民主主義国における政治」

[司会・討論]

伊東孝之

[報 告]

河合信晴|成蹊大学
「東ドイツ、SEDの『余暇政策』とその矛盾(1961-1980)」

豊田紳|早稲田大学・院
「独裁体制における部分的競争選挙導入の試みとその蹉跌:1937年ソ連および1965年メキシコを比較する」

[討 論]

中村正志|アジア経済研究所