2000年度 日本比較政治学会(第3回大会)プログラム

2000年6月24-25日[於 京都大学]

第1日 6月24日(土) 14:00~17:00

自由企画|「ヨーロッパ「小国」研究の意味」

研究対象としての「小国」は、面積、人口、GDP、軍事力などで一義的に定義できるものではない。なぜそんな国をという不審(好奇)の視線を他人から浴びる国はみな「小国」であるといえなくもない。この企画の趣旨は、不毛な”言い訳”に時間を割かずに、なぜその国の研究が比較政治において重要か、その国の政治・政治史のどこが面白いかを正面から論じてもらい、そのことを通じて問題設定と分析手法を互いに啓発しあうことである。われこそは小国研究者と思う人、私の国は「小国」ではないと思う人、そして「大国」研究者を以て自認する人も、奮って参加してほしい。もちろんヨーロッパ以外の地域を研究している人の参加も歓迎する。

[報 告]

水島治郎|甲南大学
「『小国研究』とオランダ政治」

横田正顕|立教大学
「『小国研究』の中の『研究小国』──ポルトガルの場合」

仙石学|西南学院大学
「『東欧』『小国』研究と比較政治」

吉武信彦|高崎経済大学
「デンマークからみたヨーロッパ研究の視点」

[司 会]

田口晃|北海道大学

自由企画|「東南アジアコーカス 比較の中のインドネシア」

スハルト政権が崩壊してから2年を経ようとしている。その間に、総選挙が行われ、東ティモール紛争があり、新しい大統領が決まった。アチェーの紛争に見られるように、転換期はまだ終わっていない。このようなインドネシアの体制変動は、隣国のタイやフィリピンなどにおける民主制への移行過程と比較して、軍の機能とその転換や国内政治統合の動揺など、独自の特徴を帯びているといえるだろう。それはなぜか、他の東南アジア諸国の体制変動との比較のなかで、インドネシアの体制移行の問題を考えてみたい。東南アジア研究者を想定してはいるが、そこでの議論をさらに刺激するためにも、ラテンアメリカ、中東、ヨーロッパなどさまざまな地域の研究者の参加を歓迎したい。

[報 告]

本名純|立命館大学
「インドネシア国家再建における国軍問題」

西芳実|東京大学
「アチェ問題──ポスト・スハルト体制における分離主義の展開」

[討 論]

土佐弘之|東北大学

[司 会]

木村宏恒|名古屋大学

自由論題

[報 告]

金光旭|名古屋大学
「韓国の米軍政期(1945-48)における反共政策の形成過程」

趙宏偉|法政大学
「中国の地方省共産党委員会書記の権力」

[討 論]

長田彰文|上智大学

[司 会]

李景珉|札幌大学

懇親会 会場:京大会館

第2日 6月25日(日) 10:00~12:30

分科会1|「アジアの地方分権改革」

この分科会の目的は、第1にアジア各国において展開している分権化の動向について検討し、知見を深めることである。そして第2に、アジアにおいて、分権化を推し進める大きな力、たとえば、国際機関の影響力、市場化への要請、都市化の進展など、基本的な要因について検討を加えていきたい。その上で最後に、各国によって分権化への対応がどのように異なっているのか、その分権化の異同を析出し、説明を試みて行きたい。全体として、実態分析を十分にふまえた比較政治分析を試みることが、本分科会のねらいである。

[報 告]

川中豪|アジア経済研究所
「フィリピンの地方分権改革」

岡本正明|京都大学
「スハルト権威主義体制終焉に伴う地方分権化」

橋本卓|同志社大学
「タイにおける地方制度改革の動向と課題」

[討 論]

北山俊哉|関西学院大学

岩崎美紀子|筑波大学

[司 会]

真渕勝|京都大学

分科会2|「比較政治史は可能か」

分科会のねらいは3つある。第1は異文化間比較のrelevancyの問題。西欧諸国相互の比較の有意性・有用性を疑う人は少ないが、西欧の国と東南アジアの国との比較となると、だれもが首を傾げるだろう。では、西欧の国と日本の比較ならば可能なのか?第2は歴史現象の比較をめぐる問題。時間をほぼ同じくして類似の現象が複数の国に現れた場合、それは「影響」によるものなのか、それとも歴史的文脈の「共通性」によるものなのか。また一定の共通性が認められたとしても、比較の視点は「一国政治史」研究にどれだけ寄与しうるのか。第3は1930年代政治史の再検討。かつて共産主義・民主主義・ファシズムの三つ巴図式に乗って政治史研究の花形であった30年代がその座から滑り落ちて久しい。「比較」によって新たな地平を切り開くことができるだろうか。いささか「気負いすぎ」の気味のある企画で、空回りの危険は自覚している。本学会設立の趣旨にある「挑戦」の精神を思い起こして、敢えてその危険を冒したい。

[報 告]

坂野潤治|千葉大学
「『労働』か『平和と自由』か──日本における人民戦線の挫折について」

中山洋平|東京大学
「『人民戦線』の比較政治史?──西欧諸国と日本」

山田徹|神奈川大学
「ヴァイマル共和国末期における政党間連合の態様とその可能性」

[討 論]

空井護|東北大学

[司 会]

馬場康雄|東京大学

分科会3|「イスラーム政党」

近年のイスラーム復興運動の広がりやイスラームの政治化によって、「イスラーム政治」や「イスラーム政党」が注目を集めるようになっている。はたして、このようなカテゴリー/類型/概念は、イスラーム世界の政治を分析する上で有効なのであろうか。それとも、このように地域の特殊性を強調する用語は、比較政治的な観点から見て疑問視されるべきであろうか。民主化と政党政治は不可分の関係にあるが、その一方で、民主化とイスラーム政治の間には緊張関係が認められる。そうであるならば、「イスラーム政党」はどのように位置づけられるのであろうか。従来、中東ないしはイスラーム圏は比較政治学の研究対象としては手薄な地域であったが、そこにおける「イスラーム政党」を取り上げることで、理論的な問題と具体的な実態を合わせて検討し、研究の視野を広げたい。今回は、中東の事例を中心にして、東南アジアからの視点を交えた討論を行う予定である。

[問題提起]

小杉泰|京都大学「問題提起」

[報 告]

酒井啓子|アジア経済研究所
「イラクにおける『イスラーム政党』──組織化と運動実践の連関と乖離」

澤江史子|一橋大学
「トルコにおける『イスラーム政党』」

[討 論]

白石隆|京都大学

[司 会]

小杉泰|京都大学

14:30~17:00

共通論題|「民族共存の条件」

民族の間の反目は、過去も現在も多い。それだけに、複数の民族集団が同じ国境の中にいるのを見れば、もうそれだけで紛争状態を想定するような分析も少なくない。宗教や民族の異なる集団の「共存」が、じつは暴力の別名にすぎない事例も多い。しかし、民族集団がどこでもいつでも内戦ばかりしているわけではないし、その共存の根拠も暴力だけとは限らないのである。それでは、異なる民族や異なる宗教集団が、民族への帰属意識や宗教上の信仰をうしなわずに、またお互いに内戦も起こさずにひとつの政治社会の中で共存する条件とは何だろうか。民族紛争や宗教紛争ではなく、紛争が顕在化しない地域、あるいはのちに顕在化した地域でも、その紛争が顕在化しなかった時期に焦点を当て、その過程で政治制度が果たす役割を改めて考える。ここでは、非西欧世界の事例の方からまず検討を始め、それとの比較の中で西欧とアメリカにおける「多文化共存」の政治制度を考察していきたい。

[報 告]

月村太郎|神戸大学
「ボスニアの内戦前と内戦後──民族共存の観点から」

竹中千春|明治学院大学
「暴動の政治過程──1992・3年アヨーディヤ事件とボンベイ暴動」

北澤義之|京都産業大学
「ヨルダンの民族共存」

[討 論]

古矢旬|北海道大学

水島治郎|甲南大学

[司 会]

藤原帰一|東京大学