2021年度 日本比較政治学会(第24回大会)プログラム

2021年6月26日-27日 オンライン[hosted by 慶應義塾大学]

 

*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、研究大会をオンラインで開催いたします。分科会、自由企画、自由論題はzoomミーティング、共通論題と総会はzoomウェビナーで実施する予定です。大会参加要領の詳細は、上記大会案内もしくは会員向けメーリングリストをご覧ください。
*報告ペーパーの公開は6月19日(土)を予定しています。
*実施方法やスケジュールにつきましては、今後の状況により若干の変更が生じる可能性がございますので、ご了承ください。

第1日 6月26日(土) 13:30~15:30

分科会A|「中央政府の地方介入と政党:連邦制国家の事例を中心に」

中央と地方の政府の権限を別個に定めている連邦制の下で、中央が地方に対して、政治的あるいは行政上の介入をすることがある。本来連邦制の下では、連邦によるそのような介入が起きれば州政府の自治権が脅かされ、統合の難しさが露呈してしまう。また逆に、連邦憲法やその政治的な規範に照らせば州政府の行動が逸脱しているのに、地方に対して中央が介入をせずにとどまる場合もある。いずれも特定の政治制度、とくに政党を媒介とした中央と地方の関係が、このような事態を引き起こしていると考えられる。連邦制の下での中央と地方の関係に見られるこのような緊張、対立あるいは矛盾について、政治制度の面から考察することは、体制の変動や国家の統合の問題を考える上で重要である。

本分科会企画では、中央政府の地方介入が起きる(あるいは起きない)理由について考察し、介入が政党の制度や組織にもたらす変動、ひいては国家統合に向けた取り組みについて比較を行う。連邦制の個別事例として、近年中央と地方の関係に変動が起きているロシア、民主化過程において中央と地方の対立が果たした役割が顕著であるメキシコを、また地方分権を訴える地域の勢力が伸展し連邦制に準じる制度が導入されてきている例としてスペインとイタリアの比較研究を、それぞれ取り上げる。連邦制が運用される実態について、あるいは連邦制を希求する地域勢力と中央との関係についての検討を通じて、各事例の共通点と特異な点が明らかになるであろう。

[司 会]
平松彩子 (南山大学)

[報 告]
豊田紳(アジア経済研究所)「連邦政府による州政治への介入と民主化―覇権政党時代から体制変動期のメキシコ―」

永田智成(南山大学)池田 和希(東京外国語大学・院)「スペインとイタリアにおける住民投票をめぐる中央政府による介入」

溝口修平(法政大学)「支配政党の動員力衰退期における中央・地方関係の変化―ロシアの事例から―」

[討 論]
菊池啓一(アジア経済研究所)
平松彩子(南山大学)

分科会B|「アカウンタビリティ:有権者 ―政治家 の二者関係 を超えて」

 

伝統的なアカウンタビリティ研究は、「政治エリートの行動の帰結に条件づけた、市民による政治エリートへの制裁/選抜可能性」というアカウンタビリティの捉え方を基礎に、有権者と政治家の間の、いわゆる選挙アカウンタビリティの検討を中心に発展してきた。しかし、アカウンタビリティが上記のような二者関係を意味するものだとしても、例えば有権者と政治家の間のアカウンタビリティをよく機能させるためにはメディアなどの存在が欠かせない。さらに、アカウンタビリティの主体としての市民は「有権者」に限らない。権威主義体制における市民であっても、抗議行動などを通じて政治エリートの利得構造を変化させる余地を持つであろう。つまり、本来、アカウンタビリティとは(仮に上記のような意味内容に限定して捉えたとしても)、多様なアクター間の関係や異なる体制における政治の在り方を包摂しうるより豊かな分析概念であると考えられる。実際に、より多様なアクター、あるいは権威主義体制に分析範囲を拡大することが近年の一つの研究潮流となっている。

現在のところ、こうした新たな研究潮流が、伝統的なテーマと並ぶほどの注目を浴びているとまでは言えない。しかし、各国や各地域のさまざまな制度配置や社会の在り方の政治的帰結を理解することが比較政治学の目的であるとするならば、これまで着目されてこなかったアクターがアカウンタビリティに果たす役割や、権威主義体制におけるアカウンタビリティの在り方を検討することは、民主主義体制における有権者-政治家関係の分析をさらに精緻化することとは異なった価値ある知見をもたらすであろう。

このような問題意識から、本分科会では、①有権者/政治家双方から自律的な立憲君主、②西ヨーロッパ諸国におけるメディアシステム、③政治体制に大きな分散があるサブサハラにおける市民の選挙不正認識の三つを題材とし、幅広い地域を対象に多様な方法論で、有権者-政治家の二者関係を超えたアカウンタビリティの比較政治学的検討を行う。

[司 会]
上條諒貴(北九州市立大学

[報 告]
稲田奏(早稲田大学)“Is political engagement by constitutional monarchs compatible with democracy?”

新川匠郎(神戸大学)「西ヨーロッパ諸国でのメディアシステムの発展とアカウンタビリティの問題―政治制度の配置構成的比較を通じて―」

門屋寿(早稲田大学・院)「政党帰属意識と選挙不正認識」

[討 論]
伊賀司(名古屋大学)
上條諒貴(北九州市立大学)

自由論題A| 「制度と政策」

[司 会]
馬場香織(北海道大学)

[報 告]
野間俊希(大阪大学・院)「日韓国交正常化交渉と北朝鮮問題―在北朝鮮日本財産処理問題と日本政府の対応―」

左高慎也(名古屋大学・院)「「ジェンダーと政治」研究における制度論的転回の射程―フェミニスト制度論を手がかりに―」

奥野淳也(明治学院大学)「執行機関の独立性とコロナ政策―スウェーデンの公衆衛生庁を通して―」

[討 論]
空井護(北海道大学)
千田航(釧路公立大学)

自由論題B|「君主制と体制維持」

[司 会]
加茂具樹(慶應義塾大学)

[報 告]
今野元(愛知県立大学)「三千年紀の君主制原理―リヒテンシュタイン侯国の強大な君主制の起源―」

渡邊駿(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)「君主制型権威主義体制における正統性の諸側面―現代アラブ君主制のイスラーム的正統性をめぐって―」

[討 論]
石黒大岳(アジア経済研究所)
礒﨑敦仁(慶應義塾大学)

第1日 6月26日(土) 16:00~18:00

分科会C|「新型コロナウイルス感染症への政府の対応と有権者の反応

世界全域にわたる新型コロナウイルスの急激な感染拡大は、各国政治とその研究に大きな影響を与えてきた。欧米では、各国政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に関するデータベースが急速に構築されている。同時に、COVID-19に関する政治研究が進められており、これまでに、政治体制や国家能力などの政治的要因が政府のCOVID-19対策やその結果に与える影響、政府のCOVID-19対策への有権者の反応などについての分析が行われてきた。例えば、民主主義の国は非民主主義の国と比べて、政府のCOVID-19への初期対応が遅かったという研究成果が出てきており、政治体制と政府の危機対応の関係に新たな研究課題を投げかけている。

このような状況を背景に、本分科会では、政府のCOVID-19への対応と有権者の反応に焦点をあて、政治体制の違いが政府のCOVID-19対策やその結果にどのように影響しているのか、日本政府のCOVID-19対策に関する議論に有権者はどのように反応しているのかといった問いを、多国間比較やサーベイ実験を用いて検証した最新の研究を報告する。これらの報告を通じて、世界が直面する喫緊の課題に対して比較政治学が貢献できることを探りたい。

[司 会]
粒良麻知子(アジア経済研究所)

[報 告]
安中進(早稲田大学)「COVID-19に対する権威主義国家優位の虚実」

井関竜也(京都大学・院)池田峻(京都大学・院)石間英雄(京都大学)重村壮平(神戸大学)“Whose Blame Undermines Support for the Government: Populists, Experts, or Oppositions”

柳至(立命館大学)岡田勇(名古屋大学)久保慶明(琉球大学)菊池啓一(アジア経済研究所)「緊急事態宣言の受容―手続き的公正の影響に着目したシナリオ実験―」

[討 論]
東島雅昌(東北大学)
遠藤晶久(早稲田大学)

分科会D|「権威主義体制における民主的制度と軍

権威主義体制の民主的制度が体制の持続に貢献するという議論がある。また軍は権威主義体制の権力構造において重要なアクターとして、その誕生と持続に貢献しているといえる。これを抽象化すれば、民主的制度は体制の持続に挑戦する(可能性を持つ)アクターを包摂する役割を発揮し、軍は体制に挑戦する(可能性を持つ)アクターを排除したり体制を支持するよう強制する役割を発揮している。

本パネルは、権威主義体制的な国々において、その持続に貢献しているといわれる議会や選挙といった民主的制度と軍の関係を描くことによって、権威主義体制の持続をめぐる議論を深める場としたい。その際の中心的な論点は、権威主義体制における民主的制度と軍を、それぞれ個別ではなく、関連付けて論じることによって権威主義国家における政軍関係の一側面を描くことにある。また民主的制度にしろ軍にしろ、体制持続への貢献のかたちは時間の経過とともに変化しているはずであり、両者の関係も変化していると思われる。時間の経過による関係の変化に注目し、体制の持続に貢献する機能の多様性を描く。

[司 会]
加茂具樹(慶應義塾大学)

[報 告]
岩坂将充(北海学園大学)「トルコにおける体制持続と軍―2016年クーデタ未遂と「文民統制」の分析から―」

外山文子(筑波大学)「タイ軍事政権による「支配の正当性」の構築」

湯浅剛(上智大学)「体制移行と政軍関係―中央アジア・カザフスタンを事例に―」

[討 論]
武藤祥(関西学院大学)
中西嘉宏(京都大学)

自由企画|「ポスト・グローバル化と権威主義化

1990年代から今世紀初頭のグローバル化の議論においては、グローバル化によって国家はいっそう「変容」するか「衰退」することが予期された。しかも国家は「政治のグローバル化」によって、民主化されるであろうと期待された。しかし、2020年代に入った現在、国家はこれまでと同様の機能を果たすとともに、むしろグローバル化に対応するためにも、国家の機能が強化されているようにもみえる。しかも、世界的に「権威主義化」の波が広がっている。本企画は、この状況を「ポスト・グローバル化」としたうえで、そこでの、グローバル化・国家の強化・権威主義化の関係(杉浦報告)、民主主義国家はどう対応しているのか(小松報告)、権威主義国家はどう対応しているのか(松尾報告)を考察する。

[司 会]
岩崎正洋(日本大学)

[報 告]
杉浦功一(和洋女子大学)「グローバル化、国家の強化、権威主義化の関係の考察―アジア諸国に注目して―」

小松志朗(山梨大学)「危機の三十年―なぜ民主主義諸国は権威主義化の波を止められなかったのか―」 

松尾昌樹(宇都宮大学)「グローバル化する権威主義国家―湾岸アラブ諸国からみる権威主義国と民主主義国の相互依存体制―」

[討 論]
藤嶋亮(國學院大學)
山崎望(駒澤大学)

自由論題C|「紛争後の政治と社会」

[司 会]
稗田健志(大阪市立大学)

[報 告]
田中(坂部) 有佳子(青山学院大学)窪田 悠一(日本大学)“Wartime Experience, Peace Dividend, and Security in Post-Conflict Aceh”

藤川 健太郎(London School of Economics)“Just a Strategic Move? Exploring Good Reasons to Justify Referendums for Self-determination”

東海林 拓人(東京大学・院)「非承認国家における競争的選挙―対外的脅威による民主化―」

[討 論]
豊田 紳(アジア経済研究所)
富樫 耕介(同志社大学)

第2日 6月27日(日) 10:00~12:00

共通論題|「クライエンテリズムをめぐる比較政治学

個人的恩恵と政治的支持との交換を意味するクライエンテリズムは、時間と空間を超えてひろく至るところに存在する政治現象である。伝統的な社会的紐帯を基盤とする家父長的社会で、あるいは選挙権威主義体制下のヘゲモニー政党による票の動員において、クライエンテリズムは国家と社会をつなぐ中心的役割を果たしてきたし、さらには近年の「パトロネージ・デモクラシー」をめぐる議論は、民主主義が定着した国々においてもクライエンテリズムが「ありふれた」慣行ないし政党−有権者リンケージの主要な一様式であり続けていることを明確に示している。

民主的諸制度やプロセスを損なう権威主義の悪しき名残として、長らく否定的なトーンで語られてきたクライエンテリズムだが、現在までにそうした見方は相対化されてきてもいる。政治体制を超えて強靭性を示すクライエンテリズムの多様性について、理論・実証の両面から体系的に問い直すべき時期にきているといえるだろう。

クライエンテリズムは現代デモクラシーといかなる関係性を有しているのだろうか。各国のクライエンテリズムの効果・機能はどのようなものだろうか。また、その強弱やパターンの相違に影響を与える要因とはなにか。

クライエンテリズム研究は、地域研究的なフィールド重視の記述の手法と、数理モデルと計量分析による検証といった、様々な方法が同じ現象について試みられてきた代表的な分野でもある。本共通論題では、多様な視角・方法からクライエンテリズムを通して現代世界をいま一度捉えなおす試みを通じて、この現象についての総合的理解を深め、比較政治学の新たな知的基盤を得ることを目指したい。

[司 会]
馬場香織(北海道大学)

[報 告]

建林正彦(京都大学)「日本政治とクライアンテリズム論について」

佐藤章(アジア経済研究所)「ポスト植民地国家の統合的革命とクライエンテリズム―コートジボワールを事例に―」

鷲田任邦(東洋大学)東島雅昌(東北大学)「クライアンテリズムと民主的代表―マルチ・レベルの実証分析―」

[討 論]
中田瑞穂(明治学院大学)
稗田健志(大阪市立大学)

第2日 6月27日(日) 12:10~14:00

12:10~13:00理事会

13:00~14:00総会

第2日 6月27日(日) 14:00~16:00

分科会E|「新型コロナウイルスと生活保障:福祉国家の新たな危機なのか?

新型コロナウイルス感染症の拡大によって公衆衛生の重要性が浮き彫りになるだけでなく、休業や失業に対する「補償」への取り組みもみられた。近年の福祉国家が古い社会的リスクの「補償」と新しい社会的リスクの「準備」を組み合わせた取り組みをおこなうなかで、新型コロナウイルスによる危機は再び「補償」を利用した対応を必要としているようである。

しかし、日本の特別定額給付金はこれまでの福祉国家ではあまり想定されていない仕組みであり、そうならば福祉国家からの逸脱とも考えられる。その一方で、雇用調整助成金による休業への対応は既存の福祉国家が機能したともいえよう。それでは、新型コロナウイルス感染症は既存の制度外で対応する福祉国家の新たな危機を招いているのであろうか、それとも医療制度など福祉国家のある種の強靭さを再認識する契機となるのだろうか。

本分科会では、こうした新型コロナウイルス感染症と生活保障との関係についてドイツ、スウェーデン、エジプトの事例から検討し、既存の福祉国家への影響を考えたい。その際、アクターの福祉国家への認識や支持調達への態度、財政状況などは新型コロナウイルス感染症への対応に影響したのであろうか。そもそも、新型コロナウイルス感染症は危機といえず、単に福祉国家が経路依存的だっただけなのだろうか。感染症自体への対策よりも生活保障の観点からみていきたい。

[司 会]
千田航(釧路公立大学)

[報 告]
近藤正基(京都大学)「コロナ禍のドイツ政治―感染症対策、生活保障、政治力学―」

河村有介(神戸大学)「エジプトにおける社会保障と新型コロナ感染症―「アラブの春」以後の社会保障改革とその限界―」

[討 論]
三浦まり(上智大学)
堀江孝司(東京都立大学)

自由論題D|「革命・クーデタ・内戦後の政治過程

[司 会]
川中豪(アジア経済研究所)

[報 告]
九島佳織(東京大学・院)「民主革命後の体制構築過程とその理論化」

今井宏平(アジア経済研究所)「軍部による「民主主義のためのクーデタ」は民主主義を定着させるのか―歴史的制度論による比較考察を中心に―」

中澤香世(早稲田大学)「モザンビークとアンゴラにおける政治的脆弱性―モザンビークではなぜ内戦終結後、政治的脆弱性が強まる一方なのか?―」

[討 論]
出岡直也(慶應義塾大学)
川中豪(アジア経済研究所)

自由論題E|「比較政治学における量的方法

[司 会]
浜中新吾(龍谷大学)

[報 告]
鳥飼将雅(東海大学)「自律的な地方ボスから従順なアウトサイダーへ―2000年代ロシアにおけるアウトサイダー知事配備のパターン―」

髙村達郎(早稲田大学・院)「メキシコにおける暴力と治安維持作戦―ペニャニエト政権期における不連続回帰分析―」

勝又裕斗(東京大学)野田俊也(University of British Columbia)“Kicking the Rascals Out: On the Strategic Incentives under the Proportional Representation and Single Non-Transferable Vote Systems”

[討 論]
中井遼(北九州市立大学)
Song Jaehyun(同志社大学)

自由論題F|「新旧デモクラシーの制度比較

[司 会]
平松彩子(南山大学)

[報 告]
Stephen Day(大分大学)“Building an EU-level Transnational Representative Democracy: What role for the European Political Parties (Europarties)?”

庄司清太(北海道大学・院)「イギリス、スコットランド議会の選挙制度形成の政治―労働党と自治を推進する市民団体の関係に注目して―」

磯田沙織(神田外国語大学)「ペルーの大統領弾劾成立の可否条件に関する事例分析」

[討 論]
佐藤俊輔(國學院大学)
平松彩子(南山大学)