企画委員会による2020年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ

日本比較政治学会第23回研究大会@大阪市立大学
(2020年6月27日~28日)

分科会「民主政治の存続と文民統制の比較政治学」

企画委員 岩坂将充(北海学園大学)

文民政府による軍の政治介入の抑止ないし軍の政治への不介入は、文民統制(civilian control of the military)として比較政治学においても重要なトピックであり続けてきた。しかし理論面での発展は、1960年代前後にS・P・ハンティントンが主体的/客体的文民統制の概念を提示し、それをめぐって活発な議論が交わされて以降は、ながらく停滞状況にあった。近年は、クーデタ耐性(coup proof)の議論によって権威主義体制における文民統制――対義語が軍事独裁(military dictatorship)であると考えると非民主体制においても文民統制は存在しうる――が注目されるようになってきたものの、民主政治との関係が本格的に検討されることはまれである。
にもかかわらず、文民統制は安定した民主政治の前提条件であるとみなされ、文民統制の成否が民主政治の存続に与える影響は決定的であるといえる。民主政治のもとで文民統制がいかに実施され機能しているかという点を明らかにすることは、民主化と文民統制の関係を考察する際にも不可欠な視点を提供するものである。
そこで本分科会では、軍が政治・社会において強いプレゼンスを持っている(あるいは過去に持っていた)国々のうち、民主政治の維持に成功していると思われる事例(スペイン・ポルトガル、ウクライナ)と民主政治が安定しない事例(パキスタン)をとりあげ、それぞれにおける文民統制と民主政治の存続との関係について考察する。その際には、それぞれの歴史的背景の相違にも留意し、構造的/長期的要因と短期的要因を複合的に分析することで、民主政治における文民統制の実際や民主政治の存続への影響についての比較検討を試みたい。

司会 岩坂将充(北海学園大学)
報告 武藤祥(関西学院大学)「民政移管の態様と文民統制との関係:スペイン・ポルトガルの事例から」(仮)
   松嵜英也(津田塾大学)「ウクライナにおける大統領主導の軍改革と与党連合の構築」(仮)
   栗田真広(防衛研究所)「民軍関係から見たパキスタン現行民主体制(2008年~)の評価」(仮)
討論 濱中新吾(龍谷大学)

分科会「代表制と社会経済的格差」

企画委員 濱本真輔(大阪大学)

第二次世界大戦後、多くの国々では福祉レジームの差異はありつつも、福祉国家化が進展してきた。しかし、1980年代以降は新自由主義的改革と技術革新の下で、経済格差が徐々に広がっている。2000年代以降、アメリカを中心に代表制が社会経済的格差を反映・拡大する方向に寄与している可能性が提示されている。
日本においても経済的格差は拡大している。また社会経済システムのあり方をめぐっては、世代やジェンダー平等のあり方も深く関わる。ただし、どのような社会経済的格差が人々やエリートにどのように認識されているのか、またエリートと有権者の間で平等認知や政策の方向性は一致しているのだろうか。
そこで、本分科会では日本を主な対象としつつも、各国との比較の視座から、2018年と2019年に実施されたエリートと有権者双方への平等観調査のデータを世代間、ジェンダー、政治的平等(権力構造)の視点から分析する。それらを通じて、代表制が社会経済的不平等とどのような関係にあるのかを検討する。

司会 濱本真輔(大阪大学)
報告 遠藤晶久(早稲田大学)「現代日本の世代間不平等観」(仮)
   大倉沙江(三重大学)「日本の政治エリートと有権者のジェンダー平等観:フェミニズムは定着したのか?」(仮)
   山本英弘(筑波大学)「日本の政治構造とエリートの平等認識」(仮)
討論 辻由希(東海大学)
   西澤由隆(同志社大学)

分科会「立憲君主制と民主主義:君主は民主主義を救えるか」

企画委員 外山文子(筑波大学)

近年、世界的に選挙を通じて選出された政治指導者たちの強権性が注目を集めている。民選でありながら目的のためには人権侵害も厭わず、法の支配も破壊する強権的指導者の姿勢が、民選政治家の資質と民主主義の将来への懸念を抱かせている。
民選の政治指導者への不信から、民主主義の暴走を制御しうる存在として君主制が注目を集めている。果たして非民選の君主は、民主主義の救世主となりうるのか。
本分科会は、民主主義の問題点を補う存在としての君主制の可能性に着目し、民主主義と君主制の関係について歴史的な変容、地域や国ごとの差異について明らかにし、君主制が民主主義に対してどのような影響を与えてきたか具体的に検証を行うことを目的とする。
君主制に関する既存研究は、君主制の安定性について解明を試みるものが多い。また、君主の民主主義における役割に対して非常にポジティブな評価を行い、大いなる期待を寄せる研究もみられる。しかし本分科会では、国王または王室を政治アクターとして捉え、現代政治の中で実際にどのような動きをし、現実として政治体制に対していかなる影響を与えてきたのかについて精緻な検証を行いたい。
事例として取り上げるのは、タイ、マレーシア、スペインの3か国である。討論者には、中東の君主制の専門家を招いた。いずれの君主制も独自の特徴を持っており、興味深い事例といえよう。各事例の検証を通じて、21世紀における民主主義と君主制の新たな関係性について模索したい。

司会 外山文子(筑波大学)
報告 浅見靖仁(法政大学)「タイ君主制と民主主義」(仮)
   左右田直規(東京外国語大学)「マレーシア君主制と民主主義」(仮)
   永田智成(南山大学)「スペイン君主制と民主主義」(仮)
討論 石黒大岳(アジア経済研究所)
   堀拔功二(日本エネルギー経済研究所 中東研究センター)

分科会「多国間比較研究の挑戦」

企画委員 鷲田任邦(東洋大学)

多国間比較研究はデータの拡張に伴い増加し、一国研究や少数事例研究では見えてこない新たな知見を生み出してきた。近年も、いくつものデータセットが急速に蓄積・公開されている。ただし、多国間比較研究は玉石混交であり、データの信頼性、因果関係の妥当性、ミクロ的基礎付けなどについて、さまざまな課題も抱えている。
本分科会では、こうした多国間比較研究が抱える課題をふまえ、新たな視点・アプローチによって多国間比較研究の可能性を広げる試みを行っている3報告を通して、多国間比較分析の課題や今後の方向性について考えたい。

司会 鷲田任邦(東洋大学)
報告 今井真士(学習院大学)「任期制限の撤廃・導入の比較政治学」(仮)
   九島佳織(東京大学大学院)・湯川拓(東京大学)・日高薫(大阪大学)「Coups and Framing」(仮)
   門屋寿(早稲田大学大学院・日本学術振興会特別研究員)「選挙結果と権威主義体制の命運」(仮)
討論 高橋百合子(早稲田大学)
   中井遼(北九州市立大学)

分科会「権威主義体制における地方議会」

企画委員 豊田紳(アジア経済研究所)

権威主義体制より一般に非民主主義体制に存在する議会や選挙が、体制の安定に貢献するという議論が比較政治学において受け入れられて久しい。しかし、企画者の見るところでは、先行研究には二つの問題があった。第一に、制度が存在するにもかかわらず、明らかに体制が安定していない事例に焦点があたってこなかった。また、制度が存在することで秩序が安定する動態に関する記述はなされてこなかった。第二に、秩序維持の要となるはずの地方統治のために重要な地方議会も分析されてこなかった。
そこで本分科会では、秩序と地方議会という焦点から、現代ロシア・モザンビーク・明治時代の日本に関するご報告を以下の三人の先生方にお願いした。
これら3本の報告は、いずれも国家建設期の事例にあたると考えている。ソ連崩壊後に国家建設をやり直したソ連、国家建設に苦闘して来たアフリカ諸国からモザンビーク、そして明治期の日本の三か国は、国家建設と地方統治において、政治制度が果たす役割を分析するのに好適である。三報告を通じて、それぞれの事例について深く学べるだけでなく、まとめて見た場合には比較政治学の先行研究に大きく貢献するものと考えている。

司会 豊田紳(アジア経済研究所)
報告 油本真理(法政大学)「ロシアにおける地方議会選挙」(仮)
   網中昭世(アジア経済研究所)「モザンビークにおける地方議会選挙:民主化の要件から党内統一の道具へ」(仮)
   季武嘉也(創価大学)「日本における1890年代のムラの騒擾とその収束」(仮)
討論 豊田紳(アジア経済研究所)