企画委員会による2025年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ
日本比較政治学会第28回研究大会(於 東洋大学 オンライン)
(2025年6月28~29日)
分科会「多様性と政治的代表性」
社会が多様性を増すなかで、さまざまに異なる属性をもつ人びとの政治的代表性をいかにして担保するのかは、いわゆる先進国であるか途上国・新興国であるかを問わず、民主主義の正統性や社会の公正性の問題にとってきわめて重要な課題である。単純な多数決型の政治制度のもとでは過小代表となりやすい女性やマイノリティの政治的代表性は、どのような要因によって促進、あるいは阻害されるであろうか。クオータ制をはじめとする、政治における多様性確保を目的とした制度は、それらを実践している国において、どれほど実質的な変化をもたらしてきたであろうか。社会運動やロビーイングといった議会外での政治活動は、社会の多様な声を政治的意思決定過程に反映させるうえで、どのような役割を持っているであろうか。これらの問いを念頭に、本分科会では、女性やマイノリティの政治的代表性をめぐる問題について、政治制度、および政党や市民社会の政治実践に焦点を当てて、メキシコ、インド、日本の事例を比較検討する。
司会 牧野 久美子(アジア経済研究所)
報告 馬場香織(北海道大学)・リヴィ井手弘子(La Trobe University)「女性の実質的代表:メキシコ連邦議会の事例」
中溝和弥(京都大学)「少数派とインド民主主義」
大倉 沙江(筑波大学)「障害者政策の形成と障害者運動:日本の事例(仮)」
討論 西山 隆行(成蹊大学)
田村 哲樹(名古屋大学)
分科会「民主主義の後退時代における世論・選挙研究」
近年、世界各地で感情的分極化の進展や政治参加の停滞、排外主義を掲げる急進右派ポピュリスト政党の台頭、民主的な価値観の軽視といった事象が観察されている。こうした現象をうけて、民主主義の不安定化や後退がもたらされている、という指摘もなされている。
これらの現象について理解を深めるには、世論や選挙に関する研究を積み重ねることが重要である。有権者はどの程度分極化しており、それはどのような影響をもたらしているのだろうか?どのような場合に、人々の民主主義に対する満足感は向上するのだろうか?急進右派ポピュリスト政党は、どのように人々の支持を集めているのだろうか?このような問いに対する実証的なエビデンスを蓄積することは、民主主義の後退を食い止める方策を考えるきっかけにもなるだろう。
本分科会では、西欧、東アジア、ラテンアメリカの国々を対象とした実証研究を取り上げる。民主主義の後退時代における世論・選挙に関する最新の知見を共有するとともに、研究上の課題や可能性について議論する場としたい。
司会 小椋 郁馬(一橋大学)
報告 渥美 芹香 (東京大学大学院) 「西欧の急進右派ポピュリスト政党の2つの「勝利の方程式」?:「グローバル化の敗者」政党と右派ブロックの反移民政党」
磯崎 典世 (学習院大学)・Song Jaehyun (関西大学) 「韓国における感情的分極化と投票参加」
菊池 啓一 (アジア経済研究所) “Do Mandatory Primaries Increase Voters’ Satisfaction with Democracy? The Case of Argentina”
討論 日野 愛郎 (早稲田大学)
村上 剛 (立命館大学)
分科会「権威主義と安全保障」
ロシアによるウクライナ侵攻以降、安全保障研究においても、権威主義国家の内政に注目し、当該国家がどのような原理で対外政策をとるのかに対する関心が高まっている。こうした内政と外交を接続した分析は地域研究に加え、比較政治の強みである。しかし、これまで比較政治において安全保障に関するテーマが積極的に扱われてきたとはいいがたい。権威主義国家が台頭する現代、権威主義研究の進展を見せる比較政治によってこそ、権威主義国家がどのように安全保障政策を形成しているかについて議論を深めることが可能なように思われる。
以上を踏まえ、本分科会では、権威主義の中でも政治指導者に権力が集中する「個人化」が進む国家、および個人支配が完成した国家を取り上げる。あたかも独裁者がフリーハンドで意思決定を行っているようにも見える同体制の対外政策がどのように形成されているのか、そこに何らかの共通性が見られるのかを明らかにすることで、比較政治と安全保障を統合した研究の構築を目指してみたい。
司会 大澤 傑(愛知学院大学)
報告 五十嵐 隆幸「「個人化」する蔣介石と台湾の安全保障」(防衛研究所)
白谷 望「国王の専権事項としてのモロッコの安全保障」(愛知県立大学)
大場 樹精「エルサルバドルの安全保障政策の変容―ブケレ政権に注目して」(獨協大学)
討論 溝口 修平(法政大学)
今井 宏平(アジア経済研究所)
分科会「地域をめぐる政治過程
過去数十年にわたって世界的な潮流となっている地方分権は、各国の政治行政に大きな変化をもたらしてきた。改革自体の成否はともかくとして、分権改革の実施によって、地方レヴェルの政治アリーナの重要性が増し、地方政治に目を向けることなしに各国政治の動態を理解することは難しくなった。他方で、分権改革の中長期的な効果として、特定の地域的利益を重視する政治アクターの動向が、中央レヴェルの政策決定や政治家の行動を左右する事例が数多く観察されている。すなわち、地方政治エリートの影響力の拡大、地域政党や地域主義を掲げる政治勢力の台頭などが世界各地で生じている。各国内では全国的な利益と地域的な利益の相克が顕在化し、ポピュリズムや有権者の政治不信などの政治現象とも相まって、地域をめぐる政治が新たな政治的争点となっている。
本分科会では、地域的利益をめぐる諸問題が各国政治に与える影響について、中央地方関係の再編を経験した日本、ベルギー、ペルーを対象とする3報告を基に、地域横断的に比較検討する。同時に、比較政治学、行政学、地域研究など多様な観点からの議論を通じて、中央地方関係など関連する分野の理論構築への貢献を目指す。
司会 須川 忠輝(三重大学)
報告 磯田 沙織(神田外語大学)「ペルーにおける中央・地方関係(仮)」
吐合 大祐(後藤・安田記念東京都市研究所)「選挙区定数変化の政治学(仮)」
宮内 悠輔(立教大学)「ベルギーの自治体選挙(2024)と防疫線協定――「戦闘的多極共存型デモクラシー」論を手がかりに(仮)」
討論 工藤 裕子(中央大学)
永井 史男(大阪公立大学)
分科会「抗議行動と比較政治」
大衆が参加する抗議行動や社会運動は、各国の政治状況や体制の安定に影響を与えうる重要な現象である。1990年前後のソ連崩壊に伴い、こうした運動は一時的にピークを迎えたが、2010年代以降、再び増加の傾向を見せている。2011年頃のアラブの春では、権威主義体制の打倒を目指した大衆の動きが広がり、近隣諸国にも波及した。2019年には、権威主義化が進む世界各国で抗議行動が多発し、新型コロナウイルスの蔓延によって一時的に抑制されたものの、現在もその活発な状況は続いている。2010年代以降のこうした抗議行動の拡大には、情報通信技術の普及や技術革新が大いに貢献してきた。
他方、技術の進展は、近年、社会科学における実証分析の手法を多様化、精緻化させている。従来、測定や把握に制約があった抗議行動・社会運動も、さまざまな視点から分析することが可能になってきた。
大衆の抗議行動はどのように生じるのか。政治、社会にどのような帰結をもたらすのか。本分科会では、それぞれ異なる民主主義体制国家を対象とし、計量・数理分析を用いた3本の報告を通じて、これらの問いを検討する。各報告や議論を通じて、比較政治において、抗議行動・社会運動そのもの、そしてそれが各国の民主主義および政治体制へ与える影響をいかに分析していくことが可能か、その展望を考える機会としたい。
司会 谷口 友季子(アジア経済研究所)
報告 寺下 和宏(京都大学法学研究科)「韓国の事例」(仮)
佐藤 祐子(中央ヨーロッパ大学民主主義研究所)「ブラジルの事例」(仮)
稲田 奏(東京都立大学)「出発選挙後の有権者プロテストと選挙監視」(仮)
討論 宮地 隆廣(東京大学)
山尾 大(九州大学)